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11.心的因果

以上のような選択肢の設定に異議を唱えるかもしれません。
「いや、学校に行きたくない気持ちに何らかの因果的作用を認めるからといって、医学的・生理学的な説明を放棄する必要は全くない。
なぜなら、患者の症状を説明する時、医師はそのような気持ちや、そこからくるストレスに言及しているのであり、その意味では心的なものも何らかの役割を果たしています」というように。

しかし、医学的・生理学的な説明で子供の気持ちが引き合いに出されるのは、あくまで脳や神経の状態に結びつけられているからに他ならないのです(さらに言えば、学校に行きたくない気持ちを何らかの脳状態に置き換えて考える事が可能な以上、医学的な説明で暗黙の裡に想定されているのは、やはり脳状態に置き換えられたものとしての「学校に行きたくない気持ち」であると言ってよいでしょう)。

脳や神経の話と切り離された状態で、子供の気持ちが、腹痛に何らかの影響を及ぼすことがいかにして可能なのかについての明確なイメージが与えられなければ、その気持ち自体が因果的役割を果たしていると言うのは難しいでしょう。

多くの哲学者は、心が何かを引き起こす力を持つ、すなわち、「心的因果」が存在するという考え方が正しいということを様々な仕方で立証しようと試みてきました。