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3.物理主義の圧倒的な優位

キムの立場の問題点とは――これは物理主義全般の問題点ですが――、物理的なものの原因を辿ってゆけば、必ず物理的なものにぶつかる〈閉包性〉の原則が、初めから心的な原因を排除せざるを得ないので厳密なものにされているということです。
キムの立場への攻略法として、この原則を、心的因果を前提にする論点先取にならないような形で緩和する事の提案です。
そして、キムが心的因果の問題解決として到達した「還元主義」が全ての心的状態に関して万能ではないということを示します。

心の働きを「性質」が及ぼす影響力として解する方法は、1980年代後半ごろに登場した比較的新しいものです。
この方法もまたデイヴィッドソンの反省の上に提案されています。
けれども従来の物理主義のように、物理的性質の上に乗る形ではなく、性質そのものに何かを引き起こす能力を認めている点で、従来の立場とは異なります。
しかし、物理主義に立つ以上、やはりこれまでの立場と変わらない困難に見舞われます。
その困難な過程も居留守つもりです。

第一章で繰り広げられる議論を見る限り、少なくとも哲学的に、私たちは心的因果に何の希望も見出せないように思えるかもしれません。
第二章、第三章で有効と思われる反論の道筋を示してはいますが、物理主義の牙城を崩すのはまだまだ練り上げる必要があります。

物理主義が圧倒的に優位にある一方、日常において、心を原因として様々な事を説明しているという現実があります。