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2.キムの一撃

何故、キムの論証が「決定的かつ深刻な一撃」になったのかと言えば、キムの見解に従えば、物理主義をとるかぎりにおいて、先述の「学校へ行きたくない」ということを例にして語れば、その気持ちはおろか、例えそれが脳や神経の状態に結びついたとしても、腹痛にかかわる事はないからです。
物理主義を守りながら心の因果性も立証できるような、都合がよい立場はあり得ない事をキムは鮮明に示しているのです。

キムの立場もまた、心的因果の問題を考えるうえで避けて通れないものになっています。
第一章では、デイヴィッドソンとキムの二人の主張を紐解きつつ私たちのせかいにおいて心が何らかの役割を果たしているという考え、そして、それに基づいた日常的な心の見方がどれほどに危機的状況かを示します。

ところが、いかなる哲学的な立場も盤石ではありません。
必ずどこかに穴があって、それを上手く見つけて修復できれば心の因果性を守る事も決して無理な試みではなくなります。
その試みを第二章と第三章で展開します。
そこで行うことは2つです。
ひとつは、決定的に見えるキムの立場の問題点を浮き彫りにし、もう一つは、心の働きを「性質」の一つとして捉えなおす事です。