心の行方~哲学的、心理学的、科学的に心とは何か~ TOP > 第三章 物理主義を乗り越える 二 「性質」としての心

第三章 物理主義を乗り越える 二 「性質」としての心

第二章においては、心的因果の危機を訴えることで、キムの論証への反論のいくつかを示しましたが、この第三章からは、キムの立場をも含めた物理主義全般の難点を何とかして乗り越える方法を探ってゆきたいと思います。

心的因果を積極的に擁護する動きは、今のところはやや劣勢であるように思います。
また、物理主義と心的因果の両立を目指した非還元的物理主義は、今なお、その難点を克服できないでいます。
そんな中で、近年になって比較的有望視されているアプローチ方法があります。

それは、これまで「心的状態」と呼ばれていたものを性質の表われと看做する事で、その性質が、行動や他の心の状態などの発生に何らかの形で関与するという事を立証して、いわば「心的性質の行動などに対する因果的関与」という意味での心的因果の存在を示そうとする方法です。
そこで、中心的な役割を果たすのが、後に登場する「トロープ」と呼ばれる一形態です。

この三章では、トロープによる心的因果擁護の立場を検討する前に、まず、「性質としての心」が持つ原因としての作用について明らかにした後で、「性質」というものをめぐって、哲学ではどのような事が述べられているのかを振り返ってみたいと思います。