心の行方~哲学的、心理学的、科学的に心とは何か~ TOP > 1.スーパーヴィーニエンスとムーア

1.スーパーヴィーニエンスとムーア

心的因果の立証に役立つかどうか判断するためには、スーパーヴィーニエンスが何なのかを明らかにしなければ話が進みません。

もともとスーパーヴィーニエンスという概念が登場したのは、G・E・ムーアによる道徳的性質の特徴づけのためでした(この時はムーアはスーパーヴィーニエンスという言葉は使っておらず、R・М・ヘアによってこう名付けられたのでした)。

たとえば「勇敢である」という性質を実現する一定の行動がある考えます。
周囲の反対があってもそれを顧みずに困っている人を助けるとか、自分より強い相手との決闘に進んで応じるとか、勇敢にもいろいろある事と思われます。
ムーアやヘアと言った道徳哲学者によれば、それらの行動を勇敢でなくするには、勇敢さそのものではなく、勇敢さが当て嵌まるところの行動に変化を加えなければなりません。

「勇敢」さがある行動にスーパーヴィーンするということは、行動そのものの変化なしに道徳的な性質の変化はあり得ず、また、行動に何らかのものが生じなければ、その道徳的性質が失われる事がないという事です。

その後、この概念はしばらく日の目を見る事はありませんでしたが、ディヴィドソンが非法則一元論を提唱した際に、同時にこのスーパーヴィーニエンスにも言及した事から、心の哲学の領域で活発な論議を呼ぶ事になりました。